おひさま特集

2009年8月 1日

おひさまインタビュー

タダサトシ プロフィール
1968年東京生まれ。多摩美術大学絵画科卒業。物心つく頃から昆虫が大好き。著書は「むしのもり」「おいでよ!むしのもり」のほかに「カブトくん」「ありんこリンコちゃん」(こぐま社)など。「おひさま」に「むしのもり」シリーズを不定期掲載中。

虫にあこがれたサトシ少年

「むしのもり」の作者タダサトシさんが描く虫たちは、リアルだけどなんだかほのぼの。サイズはビッグだけど、生態にはウソがありません。
「とにかく虫が大好き!」というタダさんのご自宅を訪ねました。

■まずは、虫との出会いをお聞きしたいのですが?

2歳くらいの頃すでに「ハエと遊びたい!」って家じゅう追いかけまわしていたという親の証言があるんですが、自分の記憶にあるのは幼稚園の年長組のときですね。教室で飼っていたカブトムシの幼虫がすごく気になって、自分も欲しくなっちゃって…。

■で、昆虫採集に出かけた?

いや、僕は生まれも育ちも東京の四谷なので、かんたんにカブトムシやクワガタを捕まえられる環境ではなかったんですよ。それでも欲しくてたまらないから、近所の花屋さんでカブトムシの幼虫を買ってもらいました。

■そうだったんですか!?

だから、田舎があって夏休みに虫を捕ってくる友だちがうらやましくてたまりませんでしたね。だって、僕にとってカブトムシやクワガタと出会える場所は、デパートだったんですから。4月くらいになると、まずギンヤンマのヤゴとかゲンゴロウとかの水生昆虫がペット売り場に並ぶわけですよ。5月からはコクワガタやノコギリクワガタ、そしていよいよカブトムシ。もうワクワクしちゃってどうしようもない(笑)
そんなわけで、最初に自分のものになった成虫も、デパートの屋上で買ってもらったカブトムシのオスとメスでした。

■それは本当に意外です。タダさんは虫が身近にいるなかで育たれたのだと、思いこんでいました。

で、小学校3年生のころに、伊豆高原へ家族旅行に行くことになったんですよ! そしたら最初の夜にいきなりシロスジカミキリが網戸に飛んできて捕まえたんです。その形はもちろんのこと、ギーギー鳴くのがむちゃくちゃカッコよくて……。

■え、カミキリムシって鳴くんですか?

鳴くっていうか、首のつけ根にあるギザギザをこすり合わせて音を出すんです。その音がもうたまらなくて大興奮(笑) 興奮しすぎて熱を出して、そのあとは寝てる羽目になっちゃいました。

■ところで、お仕事部屋は見事に虫だらけですね。

カブトムシとかクワガタとか、生きているのはもちろんのこと、死んじゃったのもたくさんいますね。全部自然乾燥ですけど(笑) 形を整えてケースに入れちゃう昆虫標本ってあまり好きじゃないんですよね。触ったり動かしたりできなくなってしまうから。死んだのをそのまま置いておくと、最初は硬直してかたくなるんですけど、お湯につけたりして温めると関節とかが動くようになるんですね。そうすると描くときポーズがつけられる。

■ああ、大事なモデルさんですものね。

図鑑も参考にしますけど、背中しか写っていないことが多いんですよ。僕のお話に出てくる虫はおなかを見せたり、横を向いたりするから、こいつらにお願いしないと。

自分が読みたかった絵本を作る

タダさんが子どもの頃から大好きだったのは、虫と絵。今はそのふたつが合わさった絵本を作っていらっしゃるわけですが、そうなるまでには紆余曲折があったようです。

■タダさんは美大に進まれたわけですが、そのときはやはり絵本を描きたいという思いがあったんですか?

いや、思ってもみなかったですね。とりあえず虫じゃ生活できないから、絵の方に行こうか……というくらいの気持ちで。でも大学に行って真面目な絵を描いてもあまりおもしろくないわけですよ。それで好きな虫の絵を描いたら「ちゃんとしたものを描け」って怒られちゃうし。そんなとき、知人から絵画修復の仕事を手伝ってくれないかと言われて、卒業後もそのまま続けることになりました。ところが20代の後半に大きな病気をして、あまり仕事に行けなくなってしまったんです。そしたら父の担当編集者だった人が……。

■お父様は絵本作家の多田ヒロシさんですよね。

ええ、そうです。だから子どもの頃から編集者の方がうちに出入りしていたんですけど、僕が小学生くらいのときに作った虫の工作や絵を覚えてくれていたらしく「時間があるんなら絵本を描いてみない?」って。そのとき、ふと小学校の図書館を思い出したんです。「何かおもしろそうな本はないかな?」って本棚を見てまわるんだけど、ないんですよ。虫が載っているのは図鑑とかばっかりで、虫が出てくる楽しいお話っていうのは全然なかった。だから、あの頃の自分のために描こう、と。

■そしてできあがったのがデビュー作「カブトくん」(こぐま社)というわけなんですね。

以来、ずっと虫一筋の絵本作家です!(笑)

■しかし、どうしてタダさんはそれほどまでに虫にひかれるんでしょうか?

理由はたくさんありますよ。まず、小さいのに色や形が複雑でものすごくよくできてる! 機能に無駄がない! 種類が多い! 細かいことをいうと、触角がいいんですよね。ずっと見てると、なんでこんなのがついているんだろう? って不思議でおかしくなりそうですよ、今でも(笑)

■確かに虫って身近だけど不思議なことが多いですよね。

でしょ? 卵から幼虫になってサナギになって成虫になるなんて、いったいどんな気持ちなんだろう? ヤゴなんて水の中にいたくせにトンボになって空を飛んじゃうんですから! 虫って、あんなにカッコよくておもしろいのにさっぱりわかんない。謎だらけですよ。そこがまたたまらなくいいんですね、きっと。

■でも残念なことに今の子どもたちは虫と触れ合う機会が少ないように思います。

それはやっぱり環境がね。しかし都会でも虫に出会うことはできますよ。たとえばアゲハチョウの幼虫はミカンの木さえあれば見つかりますから、ぜひ育ててみて欲しいですね。幼虫からサナギになるときもおもしろいし、成虫になって羽がぐんぐんのびるところなんて本当にきれいですから。エサの葉っぱさえ確保できれば世話もそれほど大変じゃないし。
で、これはおもにお母さんにお願いしたいんですけど、子どもが虫に興味を持ったら、あまり騒がずに、できるだけ見守って欲しいんです。

■ついつい「気持ち悪い」とか言っちゃいますものね。

でも親がそれを言っちゃうと、せっかく虫を好きになりかけた子も「これは気持ち悪いものなんだ」って思っちゃうんですよ。あのね、虫って一番身近に「死」を知ることができるんです。虫は悲鳴もあげないし血も出ないけど、今まで生きていたものが死んでしまうということを目の当たりにできる。もしも子ども自身が死なせてしまったとしても、それはとても大切な経験だと思うんです。そういう体験をしないっていうのは、すごくもったいない気がしますね。

■「むしのもり」では主人公の男の子「さっちん」が自分と同じくらい大きい虫たちと楽しく遊ぶわけですが「さっちん」はやっぱり……?

僕自身ですね(笑) どんなに虫が好きでも、彼らはしゃべるわけじゃないし、ましてや犬や猫みたいに一緒に遊べるわけじゃない。それがもどかしくてたまらないんですよ。
 一番やりたいことは、「はるのまき」みたいにオオクワガタと一緒に寝ることかな。あんなの気持ちが悪くって地獄みたいだって言う人もいると思うけど、僕にとってはあれが永遠のあこがれです!

読者カードで「これまであまり虫に興味がなかったけど、お話を読んで本物が見たくなった」というお便りが来るとすごくうれしいというタダさん。たまには親子で虫探しに出かけてみませんか? きっと新しい発見があると思いますよ!

※本インタビューは、定期購読者向けにお届けしている「おひさま通信」2008年夏号の記事より抜粋したものです。

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